2022.10.24
「消費者に届く」広告戦略をトータルサポート 株式会社 陽だまり堂 芝崎 陽子さんインタビュー
2022年7月に創業20周年を迎えた陽だまり堂。「創業時はここまで仕事の幅を広げられるとは思っていませんでした。支えてくださったご関係の皆様や社員、家族には感謝しています」と社長の芝崎 陽子(しばざき ようこ)さんは穏やかに話します。
今回は、第一線で活躍し続けるうえでの心構えや創業時の想い、これからの陽だまり堂について、株式会社AMU代表の鹿倉 安澄がお話をうかがいます。
陽だまり堂は小規模でありながら、一部上場企業からの依頼が絶えないと聞きます。その経営の秘訣はどこにあるのでしょうか?
私は創業2年目の小さな会社AMUを営んでいます。女性経営者の先輩である芝崎さん、そのひまわりのような明るい笑顔と奥底に秘められた力強さに、お会いするたび、元気をいただいています。期待と少しの不安を胸に、インタビュー当日を迎えました。
Contents
創業20周年、NOと言わずに全力で取り組むことで形成されていった「陽だまり堂」ブランド
鹿倉 「創業20周年、おめでとうございます!」
芝崎 「ありがとうございます。法人設立20年、陽だまり堂創業22年が経ちました。立ち上げ当初は家族の協力のもと、自宅のリビングの一角を“陽だまりスペース”と名付け、ファックスと社用携帯を用意して、小さくスタートしたんですよ」
現在はずいぶん“起業”へのハードルは下がりましたが、その当時、ご家族の賛成を得て、創業に踏み切るのは大きな決断だったのではないかと思います。
これまで芝崎さんとお話するたび気になっていたのは、「なぜ創業当初から順調に案件を受注し続けられたのか?」ということです。この機会に疑問を投げかけてみました。
芝崎 「決して順調だったわけではありません。山あり谷ありの中、もともと築いていた人脈のおかげや、どんな課題にもNOと言わずに全力で取り組んできた結果、『陽だまり堂』というブランドが徐々に形成されていきました。
さまざまな仕事をお受けしているうちに間口が広がって、細やかに相手を見て聞いて課題に向き合う中で『ドーンとぶつかっても怖くない』と思えるようになりました。陽だまり堂に確信とノウハウというパワーがついていった結果だと思っています。」
力強い芝崎さんの言葉に、早くも引き込まれます。
真摯に取り組み、信頼と実績を重ねることで、別部署を紹介いただくなど新たなお仕事につながっていったとか。華やかに見える広告業界ですが、やはり地道な努力と積み重ねが大切なのですね。
「クライアントを動かす芝崎の勢いや発想には僕も驚かされます」と語るのは、創業時からのパートナーで長年に渡り広告業界で活躍されるプロデューサー兼ディレクターの瀬戸 郁夫さんです。
瀬戸 「業務に生きてくるのが彼女の“女性目線”です。お客様をよく見て、きめ細やかに、時に大胆に提案します」
女性だからこそできる仕事を!創業の道へ
女性だからこその視点がビジネスに活きるということ、最近は世の中にだいぶ浸透してきましたが、創業当初は様々な観点から状況が違ったのではないかと想像します。なぜ女性目線のマーケティングを行おうと思ったのでしょうか。
芝崎 「私自身が女性であることが根本にありますが、かつて女性社員が圧倒的に多い大手化粧品メーカーに勤めていた経験が大きく影響しています。
“女性が輝く時代のリーディングカンパニー”という華やかなイメージの大企業でマーケティング業務に従事していましたが、実際には、女性がいくら活躍しても評価されない文化が根強く残っていたんです。能力が高くとも昇進できないという大きな壁を実感しました」
二十数年前の日本は、どこも同じような状況だったのかもしれません。しかし、「才能を発揮していても、女性であるというだけで『前例がない』といわれ、企画・提案アイデアがあっても思うように話ができない現実を目の当たりにし、やるせない気持ちが膨らんでいった」と芝崎さんは言葉を重ねます。
ともすれば「世間の当たり前」に流されてしまうものですが、芝崎さんはその想いを胸に全力で動き出します。
芝崎 「女性の意見に耳を傾けない上司に憤りを覚えて、逆に女性だからこそできるコト、女性に対して求められる必要性、それらを先に深く思考するに至りました。『時代を変えたい!自分の力で常識を変えるんだ!』と創業への想いが膨れ上がっていきました。女性だからこそできることがきっとあるはず。私には何ができるのか、可能性を追求しようとしたんです」
現在は「女性目線のマーケティング」を強く打ち出している陽だまり堂ですが、創業当初から掲げていたわけではありませんでした。「想いはずっと変わっていませんが、今の時代に呼応したニーズだと判断し、前面に出すようになりました」と、タイミングを逃さないのは、マーケティングを主軸に置く陽だまり堂ならではです。
ビジネスパートナーとの出会い
お話のなかで羨ましく思ったのは、瀬戸さんの絶妙な合いの手です。多くの時間を共に過ごしてきたからこその無駄のないやり取りに、その出会いが気になり、尋ねてみました。
芝崎さんはもともと化粧品会社に勤めていましたが、目の前の仕事を“こなす”だけで学びのない日々に焦りを感じ、オーストラリアに留学。帰国後、広告業界に足を踏み入れたそうです。
芝崎さんと瀬戸さんが出会ったのは2001年。別々の会社ではありましたが、それぞれプロデューサーとして業務上の接点があり、芝崎さんが創業する際に『一緒に仕事をしないか?』と声をかけたのだと教えてくれました。
瀬戸 「私は女性商材を扱う機会が圧倒的に多くて。最初に担当したのは女性のファッションでした。その後も、宝飾品や化粧品をはじめとする女性商材を多く扱いましたが、モノによっては男性が扱いにくい商材もあり、パートナーシップを組むことでビジネスがうまく効果を上げるようになっていきました」
芝崎さんから声をかけられたとき、瀬戸さんは取引先への出向期間が長くなり、環境を変えたいと思っていたタイミングでした。「営業とか制作とかの枠組みを超えた軸で広告に取り組むなら今しかないかな」と決断されたそうです。
運やタイミングはビジネスにおいても重要なファクターです。お二人がビジネスパートナーとして出会ったのは必然だったのかもしれません。
課題・難題を乗り越えて、同じ方向に進んでこられたのは、お互いを補完しあい、尊重しあっていたからに他なりません。
「どちらか一方がフォローし続ける関係は長くは続かない。ボケとツッコミをそれぞれが担えるのがいいのかな」と瀬戸さん。きっと必要に応じてその役割を交代されているのでしょう。お話の端々でそう感じさせられます。
芝崎 「どちらかが『これが正解だ』と思っても、『それはないだろう』と意見がぶつかることも多々ありますが、結局は建設的な方向に進んでいくんですよね」
「大人の女性向けの旅」の販促アプローチ
現在は「女性目線」を掲げている陽だまり堂ですが、創業当初はどのようなお仕事をされていたのでしょうか。
瀬戸 「当初はファッションと旅行に対して、商品を拡販する“販促アプローチ”がほとんどでした。僕も芝崎もそれまでの経歴からして、女性をターゲットとした商材が多かったですね」
ファッションは女性がメインターゲットとなりそうですが、旅行に性別は関係なさそうに思われます。よくよく聞いてみると、陽だまり堂が多数依頼されていたのは「大人の女性向けの旅」でした。
芝崎 「『旅行代理店さんが企画した旅行プランをお客様に選んでもらうにはどうしたらいいか?』を消費者目線・旅行者目線で考えるのが仕事です。大手旅行代理店は自社の広告専門会社を持っています。その方々とタッグを組んで戦略を練るなど、様々な方向性を駆使します。
時には各地の行政とも協力して『その土地の魅力がどこにあるか?』『どんな観光地にしていきたいか?』と考えを巡らせます。
なかでも、某大手旅行会社が長年取り組んでいる、地域・文化・そして人との新しい出会いなど“交流体験”を支援・推進する事業に参画させていただいたのは大きな経験でした。
地域に根差した持続的な交流の創造と各地域の魅力の創出にスポットをあてた施策です。弊社では、行政・消費者から応募された作品の受賞冊子制作、本施策の意義を広く認知・浸透させるための新聞広告制作に携わりました」
女性商材を中心に販促活動を行ってきたことで得られたのは、性別を超えた「感動的な人間目線」、地域に根付いた「伝統的な環境目線」だったと芝崎さん。この二つは、その後の多岐にわたる案件に大きな影響を及ぼしたそうです。
陽だまり堂の“女性目線”は、女性目線を生かしたマーケティング
そして、現在。
陽だまり堂は、“女性目線マーケティング” “企画型マーケティング支援” “多角的クリエイティブ制作”の三つを柱に企業支援を行っています。
最初に“女性目線マーケティング”と聞いた際、女性商材に限定しているのかと思いました。しかし、「ターゲットの性別は問いません」と芝崎さん。「女性目線を生かしたマーケティング」が大きな特長です。
芝崎 「広告代理店が行うマーケティング戦略の領域と制作会社が担うクリエイティブの領域、陽だまり堂にはオールインワンで支援できる態勢が整っています。20年で培ってきたノウハウで解決策を導き出します」
現在は、販売促進に関する課題解決のためのマーケティング企画を通して、グラフィックはもとより、キャンペーンなどweb施策、集客を目的にしたイベント企画、セールスプロモーションを手掛けています。企業の販促課題の解決のため人事用パンフレットの制作なども多数行ってきたそうです。
さまざまな展開を検討し、トータルサポートできるのが陽だまり堂の優れた点なのですね。
芝崎 「広告は、ただ多くの人に伝えればいいというものではありません。企業の売り上げ拡大のために行うのですから、ターゲットとなる消費者に届かなければ価値がないのです」
小回りの利くサービスが強み。問題解決はその場でスピーディーに
規模が小さいからこそできる小回りの利くサービスが強みの陽だまり堂。すべてのプロジェクトに芝崎さんや瀬戸さんが関わり、その場で決断します。独自性と専門性に長け、融通がきくから、スピーディに問題解決できるのでしょう。
芝崎 「私たちは経験上考えていますが、オールインワンと謳っていても、“社内で完結できる”というだけで、実際は担当者がどんどん変わり、一貫したサポートがないケースが多いのはよくあるパターンです。
その点、陽だまり堂では、私たちが中心となって、その場で判断しつつ進められます。
『持ち帰って社内で検討します』と言うことはまずありません。現状のお客様の課題に則って、アイデアからプラン実行まで時間をかけず、スピーディーに課題に取り組み、解決できます。
また、ご相談があった時点で『できない・やらない・わからない・知らない』と陽だまり堂は言いませんし、そのようなネガティブ発想はしません」
「クイックレスポンスには自信がある」と瀬戸さんも同意します。お二人が核となり、多くのクリエイターとユニットを組み、業務にあたるのも陽だまり堂の強みの一つです。
芝崎 「弊社の特徴として、私たちとタッグを組むのは、向上心のある方ばかりです。自己研鑽を欠かさない姿勢を頼もしく思っています。スタッフに恵まれているのも、人と人とのつながり、ご縁を強く感じます」
訪問した際、若いクリエイターさんが現場にいらっしゃったのですが、若い世代の方とも分け隔てなく接する様子に、芝崎さんと瀬戸さんの懐がとても深いから、自然と優秀な人材が集まってくるのだろうと思いました。働く側にとって、意見や提案を聞き入れてくれる上司の存在はうれしく、やる気につながります。
クライアント企業の担当者も、芝崎さんと瀬戸さんの存在を心強く感じるのもうなずけます。
この先、ますます若い世代の方々が活躍する社会になっていきます。効率重視の世の中だからこそ、陽だまり堂のように人を大切にする企業の温かさは、次世代に求められていくのではないでしょうか。人と人とのつながりを第一に考えていらっしゃる芝崎さんを指名する企業担当者の気持ちがよくわかります。
また、男女や年齢などの“属性”で区別しない、フラットなお考えが社内に浸透しているのには、瀬戸さんの存在も大きいように感じました。
芝崎 「瀬戸は人に対してとても柔軟な考え方をしていますが、販促を通しての課題解決へのこだわりは誰よりも強いと思います。
どのような仕事でも、最後までしっかり寄り添う。それが私たちのずっと変わらない姿勢です。人と人との信頼と実績こそがお仕事の継続につながると実感しています」
世の中から“広告”が消えることはない。陽だまり堂が「時を作る」
創業20周年の節目を迎え、今後、陽だまり堂はどのような道を歩んでいくのでしょうか?
芝崎 「私たちの扱う“広告”は、商品やサービスがある限り、世の中からなくなることはありません。しかし、昔は雑誌やテレビ、ラジオがメイン媒体であったものが、今はデジタルに場所を移したように、どんどんカタチを変えていきます。
この先、どのように事業展開していくか…。大切なのは時流をつかむことですね。
『私たちが何をやりたいか』よりも、『世に何が求められているかを常にキャッチしたい』と思っています。
ずっと同じことを繰り返していたのでは、時流には乗れません。当初はグラフィックがメインツールであった私たちですが、店舗開発や戦略、企画など、少しずつ幅を広げ、力をつけてきました。
もちろん軸は広告です。しかし、発信のための材料は変わっていきます。どのような時代になろうとも、情報源が必要なことは変わりません。陽だまり堂は『時を作ることができる』と確信しています。
次の時流に乗るためには何が必要なのか、常にアンテナを張って追及していきたいと思っています」
瀬戸 「そういう意味では、芝崎は非常に長けていますね。
直感で、『これだ!』と思った瞬間、もう行動に移しているようなところがあります。自分に火の粉がかかってもつかみに行く、その決断力はさすがだなと思います。
なかにはクライアントとの信頼関係をなかなか築けない案件もあります。でもそれに発奮して、そのままでは終わらせない強さがあるんですよ」
プラスもマイナスも、すべて前進する力に変えていく。それが陽だまり堂の魅力となり、人が集まってくるのでしょう。
芝崎 「『いい面も悪い面も引き出してくれるお客様との出会いがどれだけあるか』ということだと思っています。改善するためのきっかけを与えてくださるお客様には感謝しかありません。出会いやチャンスは人対人、信頼そして実績の積み重ねではないでしょうか。
出会いも運であったと思います。陽だまり堂としての20年間、山あり谷ありで、アクシデントをいくつも乗り越えてきました。『今回こそ、もうダメだろう』と思っても、試練に負けない心意気を持ち続けられたのは、関わるスタッフが支えてくれたおかげです」
瀬戸 「この20年、紆余曲折を経て、一致して前に進んでこられたのはそのせいかもしれませんね」
芝崎 「逃げ意識を排し、強く立ち向かう決意と勇気と行動力。それが陽だまり堂なんだと思います。社員、家族、そしてお客様と共に勝ち進んできた20年。この節目にすべての方々への感謝を込めて、お客様に寄り添い、さらに躍進していきたいと願います」
芝崎さんの優しい笑顔の奥に秘められた強い想いに触れ、あっという間の2時間でした。ご一緒していると「芝崎さんがいれば大丈夫」となんとなく安心感があるのは、人との出会いを大切に、母のような目線で周りを見渡していらっしゃるせいなのでしょう。
本日は貴重なお話をありがとうございました。